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Day_2_2 思想産業廃棄物

「またこの夢か」
「またこの夢だね」

 心地よい夜風の吹く公園に、また人が集まっている。メンバーは前回と同じだ。
 状況は昨日の夢と全く変わらない。
 大神くんは深いため息をついた。

「来るなよ、また殺し合いになるんだろ」
「ぅ、今は包丁持ってないよ」

 ひらひらと両の手のひらを見せる。心底怪訝そうな顔をされた。

「今のところは、な。今のところは」
「お互い冷静に話せてるね」
「あの変な声のせい、だろうな。おかしくなるのは」

 そう言うと、大神くんは踵を返してスタスタと歩いて行ってしまう。

「えっ、どこ行くの?」
「探索。あとは向こうのやつらを観察」
「私も行く!」

~~~~~~

「赤井は、よくそんなに知らない人へ話しかけていけるよな。昼もそうだった」
「えっ、そうかな? このくらいは普通だと思うけど」
「…………」

 私たちは近場にいた人たちに軽く挨拶をして、手短に状況を聞いてみた。
 みんな私たちと同じく、この夢は2回目らしい。

 ……大神くんみたいに、やっぱりここに居る人全員、現実に実在する人なのかな?
 それを確かめる為には──

「みんなーーー!! 明日の昼、できたら夢路中央公園に集合ねーーーー!!」

 公園中に聞こえるように、思いっきり叫んだ。
 明日は土曜日だし、誰か来てくれたらいいなぁ。

「本当に来るのか? あいつら、ただの夢の中のNPCかもしれないだろ」
「それを調べる為に会いたいの。あ、大神くんも公園来てね」
「……行けたら行く」
「来ないやつじゃんそれ、絶対来てよね」

~~~~~~

 それにしても、夢の世界は私の住む街──夢路市そっくりだ。
 公園の外を覗いてみれば、見覚えのある夢路市の街並みがそのまま広がっていた。ちょっと違うのは、人が全くいないこと。

 そして何より変なのは、突拍子もなくおかしなものが置いてあること。
 公園を巡ると、そこかしこに消しゴムやアンズっぽい花、はたまたピアノなどが落ちていたり置いてあったり。
 ぬいぐるみ達が、会議でもしているみたいに群れになって座っていたり。

 今見つけたのは、ブランコの座る所に置かれた皿と、その上に乗った──

「ウサギのリンゴだ!」
「っ……急に大きな声出すなよ」

 仕方ないじゃん、リンゴけっこう好きなんだから。
 皿を手に取ってみると、なんだか無性に懐かしい気持ちになった。

「ってこれ、家にある皿と同じだ」
「そうなのか?」

 そうだ、昔お母さんにリンゴの切り方を教わったことがあって、そのときは確かこの皿を使って──

「うーむ……ひとつの仮説なんだが、この辺に落ちてる物は皆、誰かの記憶なのかもしれないな」
「そうなの?」
「見覚えがあるんだろ、それ。夢は記憶から作られるらしいからな」

 そう言われてみれば、そうなのかもしれない。
 あそこに置いてある姿見や落ちてるハサミも、公園に集まった誰かの記憶?
 この夢は、色んな人の記憶が混ざってできているのかな。

「大神くんは、何か見覚えのある物見つけた?」
「いいや、まだ……」
「そうなんだ」

 どうにか見つけられないだろうか。私はあたりを見渡して、怪しい物を指差していく。

「そこのハーバリウムとか知ってる?」
「あの花の入った瓶のことか……? 知らないな」
「じゃあアレ、あのベンチに置いてあるハーモニカは?」
「知らない」

 そして、茂みの中に落ちている、ピカピカのそれを指差したとき──

「じゃ、あのサッカーボールは──」
「ッ──!!」

 大神くんは一瞬顔を強張らせて、

「知らない……な」

 そう言った。
 分かりやすい嘘だ。

「知ってるんだね?」
「知らねぇよ」
「どう見ても顔に出てたし」

「だから知らねぇって────」


 そのとき、あの音が──あのコンコンと叩くような音が聞こえてきた。

「この音……! まずい!」
「あっ、ちょっと、大神くん!!」

 大神くんは私から逃げるように、慌てて走り去っていった。
 思ったんだけど、大神くんって走るの遅いよね。歩き方も変だし。

『殺意の時間です』

 頭に響く、前回と同じあの声。
 と同時に、周りにいる人の位置が「わかる」。

『夢を叶える夢のため』

 頭の中にレーダーが入ったみたい。不思議な感覚だ。
 遠ざかる大神くんの気配も、見えない位置にいる他の人の気配も全てが分かる。

『あなたは人を殺します』

 私は駆け出した。
 一番近い位置にいる、誰かも分からぬ気配の方へ。









 

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