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Day_5_2 自己犠牲による負傷者多数
広い広い調理場に立ち、サラダのための野菜を刻む。
お父さんが帰ってくるまでに、食事の用意を済ませなきゃ。
私は料理が結構得意だ。お母さんに教わった。
お母さんは料理が好きだった。だからこんなにキッチンの広い部屋に住んでいたし、包丁や鍋だって用途別にたくさん置いてある。
お母さんの料理が美味しかった理由は、たぶんレシピの分量をしっかり守るその真面目な性格。
お母さんには『無策なアレンジは失敗の素』ってよく言われたなぁ。
……私はたまに、ちょっと冒険することがあるけどね。
お母さんは1年前、トラックに轢かれて死んだ。
遺体の確認はしなかった。原形も無かっただろうから。
私にとってのお母さんの形は、ずっと人の形であって欲しかったから。
運転手も死んだ。だから、恨みを晴らすこともできない。
他に怪我人も出たらしいけど、それについてはよく知らない。
世間から見たらあの事故は……数日ニュースを賑わせて、そして忘れ去られるだけの……
ただのよくある悲劇なんだ。
世間にとっては数日でも、私にとっては一生なんだけどな。
ああ、料理に集中しないと。鍋の様子はどうかな。
ことこと煮込まれるトマトスープは、夢で見たあの血の海に似て真っ赤に揺らめいていた。
……なんで今、こんなことを思い出したんだろう。
負傷者の中には、脚に重傷を負った人が一人いたことを……。
今度調べてみようか。改めて、あの事故について。
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