Day_4_1 獣はみな人
今日の夢見も最悪だった。
あの石を捨てても夢は無くならなかった。
その上、念には念をと沢山カフェインを摂取したのに、抗えない眠気に襲われ意識が夢に引き込まれてしまった。
あの夢で起きた戦いを思い起こす。獣となった俺が、猛禽のような人間に切り裂かれ殺された。あいつの俊敏な身のこなしは、なかなか見習うべきところもあるかもしれない。
普通ならば現代人は経験し得ない、狩るか狩られるかの駆け引き。それを脳内に再現してしまうのだから、人間の想像力とはすごいものだ。
その非日常感をあえて楽しめれば、多少は気が楽になるのだろうが……俺には無理そうだ。
何故いつもいつもこんなに痛い思いをしなければならないのだ。
一生分の痛みはあのとき味わったと思っていたのに。
脚を砕かれたあの日に。
未来と情熱を砕かれた、あの日に。
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ああ。それにしても何故、俺は狼になるのだろう。
苗字が大神だから? いや、それだけではない気がする。
夢が記憶や精神から成るのなら……俺の心の投影が、狼なのか?
凶暴で、狡猾で、己の為なら幾らでも他者を蹴落とし、喰らい……
俺がそういうやつだから、夢での俺は狼なのかもしれない。
いや、そういうやつのままでいられたら、どんなに良かっただろうか。
他者を蹴落とせるような脚は、あのときあのトラックに奪われた。
残ったのは、肥大化したプライドだけ。
能力に見合わないプライドは、ただ毒でしかないのだ。
そろそろ、起きるか。
上体を起こし、深呼吸をした。
そして俺は気がついた。
手から、口から、体から──
血の匂いがする。
「……は?」
微かに血の匂いを感じ、俺は思わず自分の体を確認した。
どう見ても怪我はない。だが、夢で暴れたときに傷が出来た位置に触れれば、確かに痛みがある。
ちょうど、塞がりたての傷に触れたような感覚だ。
どういうことだ?
まさかあの夢は、夢じゃない、のか……?
「……いや、そんな筈ねぇな。きっと、寝てる間にぶつけたりしたんだろう」
そう自分に言い聞かせながら、俺は身支度を始めた。