Day_3_2 因果のストーリー
「クソッ!! 何故またこの夢なんだ!!」
俺は苛立ちに任せて地面を殴る。その勢いでポケットから何かが落ちた。
「……は?」
土を転がる、それはあの黄色い石だった。
街灯の光を受けて輝くその瞬きが、俺を嘲笑うように揺らめいた。
そこに近付く人の気配。赤井だ。
「この様子だと、石を捨ててもダメだったみたいだね」
「畜生、嫌なんだよ俺は、殺すのも殺されるのもな」
ったく、石を捨ててもダメなら俺はどうしたらいいんだ?
原因が場所にあると仮定して、遠くで寝泊まりすれば……いや、それは難しすぎる。俺だって一応高校生なんだ。
なら、徹夜はどうだろうか。明日はエナドリ買い込んで寝ないよう頑張ってみるか? ……徒労に終わる予感もするが。
何故かは知らないが、俺はあの暗示を受けると狼になってしまう。
血も人肉の味も、一生知る事はないと思っていたのに。
ああ、思い出すだけで吐きそうになる……
「もういい、俺は逃げる。遠くに行けば誰も殺さずに済むだろ」
「それは、どうだろう……誰か追っかけてくるかもよ」
「何もしないよりはマシだ」
そう言い放ち、俺は公園を立ち去った。
~~~~~~
誰もいない真夜中の街を、ひたすらに進む。
道中、地蔵やクレヨン、ウサギのリンゴやらが虚空に浮いているのを見つけた。
大量のコロッケが魚群のように空を泳いでいるのも……
公園から遠くなるほど、景色や物理法則がより曖昧になっているような気がする。
俺の歩行速度は遅い。ただでさえ歩行には苦労する身体だというのに、狂った物理法則が余計に邪魔してくる。
進もうとしても思うように歩けないストレスが俺を締め付ける。ああ、せめて夢の中くらい速く走れないものか──
そう考えた次の瞬間、俺の体は狼になっていた。
「ああ、これは便利だな」
暗示が聞こえていなくても、なろうと思えばなれるのか。
そういえば以前赤井が、包丁を出したり消したりして遊んでいたな。夢の中ならば『武器』は自由自在なのか。
この脚ならば走って行ける。公園から遠ざかれる。
俺は道路の真ん中に降り立つと、全力で地面を蹴った。
~~~~~~
「限界、か……」
案外速く着いた行き止まりに、自然と耳が下がる。
恐らく、ここが夢の果てだ。
建物も地面も空も、水に垂らしたインクのように溶け合って形を失っている。
進もうとしても足場は無く、もがけば体がふわりと浮き上がって戻される。
この程度離れただけじゃ、殺意に呑まれた俺達ならすぐに相手を見つけてしまうだろう。
徒労だった。少し戻り、人間の姿に戻って地面に座り込む。
あの声が聴こえるまで、しばらく休んでいようか──
そう思ったとき、視線の先に何か──紙切れが浮いているのを見つけた。
それを捕まえ、読んでみる。そこにはこう書かれていた。
はは、なんだこれは。
水晶を捨てても無駄だ、お前は逃げられないと。そう言いたいのか?
水晶を手にした記憶……これを持っている限り、俺達はこの夢に囚われ続けるという訳か。
それにしても、何故これがこんなところに。これも誰かの──
『殺意の時間です』
ああ、始まった。俺は目を閉じて耐え忍ぶ。
『夢を叶える夢のため』
しかし体は勝手に立ち上がり、歩き出してしまう。
感覚は拡張され、どこに標的がいるのかが直感で分かってくる。
『あなたは人を殺します』
開き直ってこのショーを楽しめるような性格をしていたらまだマシだったのに。
いつか俺も慣れるんだろうか、あの痛みと、臓物の味に。