Day_i_2 狂乱のパレードが征く
ふと気がつくと、私は公園のベンチに寝転んでいた。
おかしい……私はついさっきまで市役所を目指して走っていたのに!
本を見られてしまった以上、もう大神くんは私の目論見を知ってしまっているはず。持っていたローズクォーツを奪われなかったのは不幸中の幸いといえよう。
死から復活した後、私は邪魔される前にと大急ぎで市役所を目指していたのだけれど……
空間が歪んで道に迷ったり、群衆に絡まれたりして進むのに手こずっていたら、突然視界がゆがんでここへ……
辺りを見回すと、見覚えのある夢共有者達が集まっていた。
……今は時間感覚が狂ってるからよく分からないけど、もしかして”丑三つ時”になったから、いつもの夢みたいにみんなここに集められたのかな?
「みんな! 聞いて!」
急いで起き上がり、叫ぶ。
ここで大神くんの信用を削がないと、もしみんなに真相を知られたら──
「大神くんを信じないで! 私はさっき、大神くんに殺さ──」
「俺がどうかしたか?」
狼が──大神くんが私に飛びかかり、言葉を遮った。
慌てて飛び退き、距離を取る。
「元気そうで何よりだ、黒幕さんよぉ!」
「何を──」
人の姿に変身すると、持っていたあの本を掲げて大神くんは叫ぶ。
「みんなよく聞け! この悪夢の、一連の事件の犯人はこの赤井切音だ!
赤井は本を持っていた! 夢と現実の境を壊す魔術が記された本だ!」
~~~~~~
目論見を暴露された赤井は、こちらを睨みつける。
「本にはこう書かれていた! 術者の──赤井の持つ水晶を叩き壊せばこの悪夢は終わると!」
俺は水晶を奪うため赤井に掴みかかろうとしたが、ひらりと躱された。
「……そう、その通り! 私はこの魔術で、あの事故を無かったことにする! お母さんを生き返らせるの!」
ここにきて言い逃れしないとは、案外潔い奴だな。
赤井は皆の方を向くと叫んだ。
「あの狂った街の人たちは、人の話を信じ込みやすい状態になってる! そして、深層意識レベルの思い込みは現実を捻じ曲げるの!
今この街の全員に言い聞かせて、心の底から信じさせたことは──本物の現実になるんだよ!」
いや、何故自分から目論見をバラす必要がある?
まさか……この魔術は赤井以外の人間の夢も叶えられるのか!? こいつ、それをエサに皆を利用しようとして──!?
「っ……!! 駄目だ、こいつの言うことを聞くな! こいつはイカれた魔術なんてもので、現実をぶっ壊すつもりなんだ!」
「私だけじゃない! あなたたちも、夢を叶えられるの!
大神くんだって、脚を治したいでしょ!? だったら邪魔しないで、私に協力して!」
俺は狼に変身し、赤井に飛びかかる。しかし攻撃は当たらない!
クソッ、さっきの強襲で体力使っちまったのか!?
「こんな上手い話二度とないよ! 現実を変えたいなら、夢を叶えたいなら、一緒に市役所までついてきて!
みんなで夢を叶えようよ! だから、夢が終わらないように私を守って!」
赤井は公園を飛び出し、人混みへと紛れていった。
「くっ……! あいつは防災無線をジャックして、市民を洗脳するつもりなんだ!
──皆、あいつを追うぞ! 市役所へ先回りしてやる!
殺すと逃げられる、生け捕りにするんだ!」
俺は赤井を追って駆け出す。見失ったが問題はない、目的地は分かっているのだ。
赤井一人の夢を叶えるだけなら、現実世界への影響はまだ少ないのかもしれない。だが、赤井の協力者全員の夢が叶えられるとしたら?
その中に世界を根底からひっくり返すような願いを抱いているやつがいて、もし赤井がそれを許してしまったら……?
核爆弾を誰彼構わず無償配布するかのごとき所業だ、あまりにも危険すぎる……!
なにより、自分が現実を受け入れられないから、魔術なんてもので現実を捻じ曲げちまうなんて……
そんな馬鹿げたこと、俺は絶対許せねえ!
何としてでも、この悪夢を終わらせなければ──!!