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Day_1_1 殺意の時間です

 私は今、夢を見ている。
 ……という自覚があるということは、これは明晰夢なのかな?
 どうやら私は、公園のベンチに座っているみたいだ。夜空には申し訳程度の星が輝く。
 見渡すと、人々が私と同じようにぼんやりと佇んでいた。

 突然、どこからともなく奇妙な音が聞こえた。心地よく柔らかな音と、コンコンと何かをたたくような音。
 周りの人も同じようで、あたりをきょろきょろと見まわしている。見覚えのある顔も何人か……あの人、学校にいたっけ?

『はじめまして みなさん
 この度は お集まりいただき 誠にありがとうございます』

 そしてその音に、ちょっと間抜けな機械音声が加わった。
 頭の中に直接語り掛けられてるみたいな、なんだか不思議な感じ。

『みなさんには 今からここで 殺し合いをしていただきます』

 殺し合い。その不穏な言葉に、周りの人は戸惑ったり笑ったりしている。
 確かにさっきの、デスゲームものの冒頭っぽくてちょっと面白いかも。

『あなたの夢は なんですか?
 生き残った方は 念願叶う素敵な夢へご招待
 幸せな眠りをお約束』

 願い事、か。
 小さな頃の夢は、ケーキ屋さんになることだったけど。

『頑張ってください それでは開始します』

 今の夢は、またお母さんと──


『殺意の時間です 殺意の時間です 殺意の時間です』

 その言葉を聞いた途端、脳が痺れるような感覚に苛まれた。
 なんだろう、思考が、塗り潰されていくような……
 あるいは、心の内に隠したドス黒いものを、無理やり引きずり出されるような感覚……

『夢を叶える夢のため 夢を叶える夢のため』

 ふと自分の手元を見ると、包丁が握られていた。先ほどまで何もなかったはずなのに。

『あなたは人を殺します あなたは人を殺します』

 繰り返し流れる言葉。顔を上げると、群衆のうちの一人が目についた。
 憎悪か恐怖か──私の知らない感情が沸き起こる。
 あいつは親の仇に違いない。だからあいつを殺さなければならない。

『殺意の時間です 殺意の時間です 殺意の時間です』

 何故そう思うのだろう。彼のことは名前すら知らないのに。
 根拠のない憎しみが殺意に行き着いたとき、私は腕を振り上げた──

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