Day_2_1 夢の世界で会った人だろ
夢路高等学校の昼休みは短い。チンタラと飯を食えばあっという間に終わる。
ゆえに食事は手早く菓子パンで済ませ、残り時間をスマホゲーに注ぎ込むのが俺のルーチンだ。
人気のない校舎裏で一人、ただひたすらに気晴らしを続ける。こうして何かに熱中していないと、クソッタレな現実に目を向けることになってしまうから。
──足音。珍しく、誰かが来たようだ。俺はとっさに顔を向けた。
「あ」
目が合う。名前を知らない、しかし見覚えのある女が、こちらを見て声を上げた。
前、俺はどこかでこいつに会ったはずだ。一体どこで────
「……チッ」
目をそらす。嫌なもん思い出させやがって。
そう、夢に見たんだ。昨夜の夢見は最悪だった。
こいつにそっくりの女が出てきて、意味不明なことをまくし立てられたと思ったら、あとは口いっぱいに血と血と内臓と肉と血。そんな夢だった。
「ねぇ」
話しかけんな。
そう思ったのも束の間、女は口を開いた。
「昨夜、君が夢に出てきたよ」
「………………は?」
女はハッとすると、慌てて付け加える。
「ご、ごめんね? 急にこんなこと言われても気持ち悪いよね、でも──」
「おかしな偶然もあったものだ……。俺もだ。俺もお前を夢に見た」
女は驚きと安堵の混じった表情を浮かべた。
「本当!? ね、内容はどんなだった?
私のはね、私が包丁持ってて、君を刺そうとしてそれで──」
~~~~~~
偶然、にしては出来過ぎだ。
女が──赤井と名乗ったこいつが言うには、俺とこいつは全く同じ夢を見ていたらしい。視点は別個だが、ストーリーの流れは一致している。
「ったく、いったい何がどうしてこうなってんだか……」
「面白くない? これってなんだか、ミステリーみたいで!」
「気味が悪いよ、俺は」
楽し気に笑う赤井の様子からは、夢に見たあの鬼気迫った顔は想像もつかない。
だいたい、何故あのおぞましい悪夢のことをこんなに嬉しそうに話せるのだ……。
「まあまあ、夢占いじゃ『死ぬ夢は吉夢』。夢で死ぬと幸運になるらしいし」
「なんだそれ……」
「有名な話じゃない? 不幸な夢を見たからって、現実が悪くなるとは限らないってこと」
そのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。
「……大変! 授業だ、もう行かなきゃ!」
赤井は校舎へと駆けだして、そして振り向き叫んだ。
「大神くん、だっけ? もしまた夢で会ったらよろしくね!」
「……そうならないことを祈るよ」
この願いは、あっさり打ち砕かれることになるのだが。